ライブハウスFireloopの音響調整 反響とコントロール
みなさんこんにちは! 創和防音のちくわです!
今回は以前のブログで書いていた、ライブハウスFireloopの音響調整に関してのレポートです!
以前のブログはこちらから↓↓
【ライブハウスFireloopの音響調整】 80Hz限定でのコントロール
Fireloop店長の足立さんからのご相談頂いたのは2つの周波数帯でしたが、今回は80Hzにフォーカスして実験を進めました。具体的にどのような状態かを数値的に説明することは難しいのですが、聴覚上「逆相感がある」という表現が一番しっくりくると思います。
今回の実験では「吸音してみる」「音の方向性を変えてみる」「部屋の長さを擬似的に変えてみる」といった内容を軸に進めてみました。
使用した吸音材はこちら
グラスウールを大量に持ち込みました。本当にご迷惑おかけしました…。
反射板が自立するスタンドも簡易的なものですが制作しました。写真に写っているのは一般的な合板ですが実験の際には木毛セメント板という建材などに使われるパネルを使用しました。
【ライブハウスFireloopの音響調整】 現状の音の状態を確認
現状の80Hzの分布を確認するためにテストトーンを鳴らしながら会場内を歩き回りました。会場内で80Hzが大きくなる点と小さくなる点を探してマップに記入しました。それが下の画像です。
ここで大前提として記載しておきたいことがあります。
このマップを見ると「この音量の増減がある箇所でライブを見たら音が悪いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんがそんなことはありません。そもそも80Hzの低周波を絶えず流し続けるというのはかなり特殊な環境です。
このテストの前に曲を流して頂き、会場中を歩き回りましたが全く問題ありませんでした。会場内どこでも音楽がちゃんと聞こえてくる環境作りという点では足立さんは創和防音よりもかなり先を行っているようにも感じました。
今回のテストはあくまでも「周波数帯毎にコントロールする」ことが目的ですので、その辺は誤解がないようにお願いします。
【ライブハウスFireloopの音響調整】スピーカーと壁面の距離を変えてみる
文字だけ読むと、壁が迫ってくるように感じるかもしれませんがそこまでの実験は流石にできません。今回は木毛セメント板をスピーカー前に立てて反射面としスピーカーと反対側の壁に当たる前に反射させてみました。
イメージは図のようのな形です。
実際の写真
遮音壁の効果は?
低音をどの程度反射できるか?というのも争点の一つになるかと思いますが、この壁を立てててもどのリスニングポイントでもほとんど効果はありませんでした。
反射板で反響しているような挙動はありましたが(音を出した直後は反射板の後ろではレベルが低い)部屋全体で低音の吸音をしているわけではないのでエネルギー量に変化はなく、またスピーカーの目の前に反射板を置くだけでは位相に変化を起こすこともできないという見立てです。
【ライブハウスFireloopの音響調整】部屋の広さを変えてみる
次の実験は擬似的に部屋の広さを変えてみるというものです。
オーディオルームやシアタールームなどを想像して頂くと長方形(実際には少しだけ壁に角度をつけています)が多いと思います。これは複雑な形のお部屋では音響的にコントロールが難しいため、そのように作られているのですが、ややL字になっているFireloopさんに壁を立てて、擬似的に部屋の広さと形を変更できないかというコンセプトです。
木毛セメント板を立てて、上から厚めの毛布を被せています。これを3枚用意して遮音壁のような役割にしています。
聴感上の効果
PAブースに上がる階段前での逆相感というのは少し薄れたように感じますがコントロール下にあるとは言えない状態でした。
成果はあったものの、なんとも言えない結果です。
この実験ですが擬似的に部屋を仕切るという目的でしたが実験を終えた後に恩師に習ったことをふと思い出しました。
学生時代「楽器の構造を考える際には長手の長さを意識しなさい」という言葉を何度も言われていました。そして、この変化の要因がそこにあるような気がしてきました。
※長手とはその空間で一番長い直線のことを指しています。
図のように床面と空間の長手を遮ったという点が作用したように感じます。
この検証はかなり難しいのですぐには出来ませんが、もう少し狭い空間で再度実験ができればと考えています。
【ライブハウスFireloopの音響調整】ベーストラップを配置してみる
一番最初の図にあった音量が大きくなるポイントをピンポイントで吸音してみるという実験です。効果が高そうな場所としてスピーカー横の空間を選びました。黄色の塊で描かれているのが吸音材です。
ベーストラップとは?
「ベーストラップ」は防音室内・リスニングルームなどで低音を吸音する目的で使われる吸音材の総称です。
低音は障害物を回り込みやすいという特性があり、レコーディングスタジオや練習室(防音室)を制作する際もスピーカー裏や部屋の角に溜まってしまいがちです。また、低音の反射は中高音域をマスキング(聞こえにくくする)してしまうこともあり、アンサンブルに悪影響を及ぼすこともあります。
「グラスウールパネルは低音に効かない」というお声を聞くこともありますが、3枚以上重ねると多少効果が出てきます。今回は80Hzのテストトーンの吸音なのでより多く重ねて10枚のパネルを一つの塊として(成人男性の体積以上あります)その塊を4つ置いてみました。
ベーストラップの効果は?
微妙な位置によっても変化しますがベーストラップを置くことで、音が小さくなる場所で3dBブーストされました。これは聴覚上もはっきりと聴き取れるレベルの変化です。
【ライブハウスFireloopの音響調整】スピーカー下の空間を吸音してみる
Fireloopさんのフロントスピーカーは小さな台の上に設置されているのですが、その下の空間が空洞になっています。それほどシビアになる必要は無いのかもしれませんが気になったので下に毛布を詰めてみました。
ふわっとしているように見えますが、2枚をギチギチに詰めています。
ここから事件が起こります。
コーヒーを頂き、ボーとした後に再度テストトーンを出して確認してみると…
一番最初に感じた逆相感が無くなっていました。さらにEQでついてもあまり効かなかった80Hzがちゃんと増減するのです。
「なんだスピーカー下の空間が何か悪さをしてたのか!」と一瞬祝福ムードが流れましたが「もともとどんな音だったかな?」と思い毛布を一度出してみました。そうすると
「毛布があるないに関わらず80Hzが普通に出ている」
「あれ?なんか治ってる?笑」となりました。自分達が持ち込んだパネルや吸音材かなと思い、全ての材料を外に運び出しましたがやっぱりちゃんと80Hzが出ています。本当に素晴らしいことではあるのですが、当初の目的のコントロールするということから最も遠いことが起こってしまい、失意のもと実験終了となりました。
実際、音響調整の現場ではよくあることですが原因不明のノイズが急に無くなったり、また現れたりと…こればっかりは仕方のないことですが、皆さんにはっきりとお見せできる成果が作れなくて非常に残念です。
以前のブログで記載した周波数のマッピングについて
実験開始から撤収までで6時間ほどお時間頂き(足立さん本当にありがとうございました)ちくわが限界を迎えてしまいマッピングまでには至りませんでした。
まもなく創和設計のショールームが完成するので完成したらマッピングの実験もしてみようと思います。反射板や吸音材によって音がどのように変化するのか?という点についてもより詳しく解説できると思います。
かなり長くなってしまいましたが非常に得るものが多い実験でした。
改めて、Fireloop様 ありがとうございました!
Comments